雪と氷に囲まれた世界を歩くシロクマ。
一般に『シロクマ』と呼ばれている動物は、ホッキョクグマのことです。
そんな姿を見ると、「北極にも南極にもいるのでは?」と思う人もいるのではないでしょうか。
筆者も動物園で何度かホッキョクグマを見たことがありますが、あらためて考えると「そういえば南極にもホッキョクグマっているの?」「南極にはナンキョクグマがいるの?」と長年、疑問に思っていました。
結論からいうと、野生のホッキョクグマは南極にはいません。暮らしているのは北極圏です。
しかも、南極にいない理由は「寒すぎるから」ではありません。
ホッキョクグマがどこで進化したのか、そして北極と南極がどのようにつながってきたのかという、地球の歴史が大きく関係しています。
今回は、なぜ南極にシロクマがいないのか、北極と南極の違い、そして「もし南極へ連れていったら生きられるのか?」まで、順番に見ていきましょう。
南極にシロクマはいない|いるのは北極

野生のホッキョクグマが生息しているのは北極圏です。
カナダ、グリーンランド、ノルウェー、ロシア、アメリカのアラスカなど、北極海とその周辺に分布しています。
IUCNのホッキョクグマ専門家グループによると、ホッキョクグマは海氷を主要な生活の場としており、そこで主にワモンアザラシやアゴヒゲアザラシを捕らえて暮らしています。Polar Bear Specialist Group
一方、地球の反対側にある南極には、野生のホッキョクグマは生息していません。
「北極と南極はどちらも寒くて氷があるのに、なぜ?」と思いますよね。
実は、その答えは気温よりも「進化」と「地理」にあります。
南極にホッキョクグマがいない理由

南極にホッキョクグマがいないのは、単に「寒すぎるから」ではありません。
その背景には、ホッキョクグマがどこで進化したのか、そして北極から南極へ自然に移動できる環境がなかったことが関係しています。
ここから、その2つの理由を順番に見ていきましょう。
ホッキョクグマは北半球で進化した
ホッキョクグマはヒグマの仲間と非常に近い関係にあります。
IUCNのホッキョクグマ専門家グループでは、ホッキョクグマはおよそ20万〜50万年前に、現在のロシア東部やアラスカ周辺にいたグリズリーに近い祖先から進化したと考えられています。
その後、北極圏の環境に適応しながら、海氷を利用してアザラシを捕らえる現在の暮らし方を身につけていきました。
つまり、ホッキョクグマの歴史そのものが北半球から始まっているのです。
南極まで移動できる道がなかった
ここが最も大きな理由です。
ホッキョクグマが北極から南極へ移動するには、地球を南北に大きく移動しなければなりません。
しかし、その途中には温帯や熱帯があります。
IUCNの専門家グループは、地球の海が北極から南極まで連続して凍結したことはなく、ホッキョクグマには南極へ自然に到達する機会がなかったと説明しています。
ホッキョクグマは泳ぎが得意ですが、だからといって北極から南極まで泳げるわけではありません。
つまり南極にいないのは、
「南極が寒すぎるから」
ではなく、
「北半球で進化し、南極へ分布を広げる経路がなかったから」
というのが大きな理由です。
北極と南極はどちらも氷の世界?実はかなり違う

北極と南極は、どちらも雪と氷に覆われた寒い地域という共通点があります。
しかし、地理的なつくりは大きく異なります。
この違いは、そこで暮らす動物や海氷のあり方にも関係しています。
北極は「大陸に囲まれた海」
北極の中心にあるのは北極海です。
その周囲をユーラシア大陸、北アメリカ大陸、グリーンランドなどが囲んでいます。
NOAAは北極について「大陸に囲まれた海」と説明しています。
海の表面にできる海氷は、ホッキョクグマにとって単なる「氷」ではありません。
移動する場所であり、休む場所であり、獲物を探すための重要な狩り場でもあります。
南極は「海に囲まれた大陸」
一方の南極は、南極大陸という陸地が中心です。
その周囲を南極海が取り囲んでいます。
つまり、
北極は「海の周囲に大陸」
南極は「大陸の周囲に海」
という構造です。
この地理の違いによって、海氷のでき方や季節変化、動物たちが進化してきた環境も異なっています。
見た目はどちらも「氷の世界」でも、同じ場所を上下ひっくり返したような環境ではないのです。
ホッキョクグマが北極で暮らせる理由

では、なぜホッキョクグマは北極の環境にこれほど適応しているのでしょうか。
その鍵となるのが海氷です。
ホッキョクグマは主に海氷上からアザラシを狩ります。
学名の「Ursus maritimus」も、直訳すると「海のクマ」という意味です。IUCNのホッキョクグマ専門家グループも、この名前がホッキョクグマと海との深い関係を示していると説明しています。
ホッキョクグマというと「寒い場所に住むクマ」という印象がありますが、より正確には、
「北極の海と海氷に強く依存して暮らすクマ」
と考えたほうが、その生態に近いでしょう。
詳しい大きさや食べ物、寿命などについては、既存のホッキョクグマ図鑑で紹介します。
シロクマとペンギンは野生では出会わない

シロクマとペンギンは、どちらも「氷の世界の動物」というイメージが強く、一緒に描かれることも少なくありません。
しかし、実際には暮らしている地域が異なるため、野生の状態で出会うことは基本的にありません。
それぞれがどこに分布しているのかを見てみましょう。
ホッキョクグマは北極圏に分布しています。
一方、ペンギンは南半球に分布する鳥です。オーストラリア南極局によると、現在知られている18種のペンギンはすべて南半球に生息しており、とくに南極沿岸や亜南極の島々に多く分布しています。
コウテイペンギンやアデリーペンギンなどは、南極の代表的な動物です。
ただし、「ペンギン=すべて南極」というわけではありません。
南アメリカ、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド周辺などにもペンギンは暮らしています。
それでも北極圏に野生のペンギンはいないため、ホッキョクグマとペンギンが自然界で並んで歩くことはありません。
イラストではおなじみの組み合わせですが、実は地球の反対側で暮らしている動物なのです。
ホッキョクグマを南極に連れていけば生きられる?

ここで、もうひとつ気になる疑問があります。
「南極も寒いし、アザラシもいるなら、ホッキョクグマを南極へ連れていけば暮らせるのでは?」
南極に自然分布していないとしても、「人が連れていけば暮らせるのでは?」と考える人もいるでしょう。
実際、この疑問は検索でも多く見られます。
ただし、「生きられる可能性があるか」と「移してよいか」は、まったく別の問題です。
単純に「寒さに耐えられるか」だけでは判断できません。
生きられる可能性と、移してよいかは別の話
もしホッキョクグマが南極にいたなら、アザラシやペンギンなど豊富な獲物を利用できる可能性がある一方、南極側の動物に大きな影響を与えることになるでしょう。
ホッキョクグマを南極へ移すことは、生態系へのリスクが大きすぎるとして否定的です。
つまり、
「ホッキョクグマ自身が生きられるか」
だけを考えてはいけません。
「そこに昔から暮らしてきた動物たちに何が起きるか」
まで考える必要があります。
南極の動物にとって突然の大型捕食者になる
南極のペンギンやアザラシは、ホッキョクグマのような大型の陸上捕食者がいない環境で進化してきました。
そこへ突然ホッキョクグマが導入されれば、ペンギンの繁殖地やアザラシの個体群などに大きな影響が出る可能性があります。
外来種の導入が在来種や生態系へ大きな被害を与えてきた例を挙げ、南極へのホッキョクグマの移送も同じような危険を伴います。
「餌がたくさんあるから住みやすそう」ということが、むしろ南極の生態系にとっては問題になってしまうのです。
北極の氷が減ったら南極へ移せばいい、とはならない

北極の海氷が減少いると問題になると、「それなら南極へ移せばいいのでは」と思うかもしれません。
しかし、ホッキョクグマの保全は、単に寒い場所を用意すれば解決するものではありません。
北極の生態系との関係まで含めて考える必要があります。
ホッキョクグマに必要なのは単に「気温が低い場所」ではなく、長い進化の中で適応してきた北極の海洋生態系そのものだからです。
さらに、新しい土地へ大型捕食者を人為的に持ち込めば、その土地の生態系を大きく変えてしまうおそれがあります。
ホッキョクグマを守ることと、南極の生態系を守ること。
どちらか一方だけを考えればよい問題ではありません。
南極のシロクマについてよくある質問

ここまで、ホッキョクグマが南極にいない理由や、北極と南極の違いについて見てきました。
最後に、この記事でよく検索されている疑問を短くまとめます。
シロクマは南極と北極、どっちにいる?
野生のシロクマ、つまりホッキョクグマがいるのは北極圏です。
南極には自然分布していません。
なぜ南極にはホッキョクグマがいないの?
ホッキョクグマが北半球で進化し、南極へ自然に移動できる連続した海氷環境がなかったためです。
南極が寒すぎるからいない、という理由ではありません。
ホッキョクグマは南極でも生きられる?
環境の一部だけを見れば利用できる餌や寒冷環境がありますが、実際に移すことは南極の生態系へ大きな影響を与えるおそれがあります。
そのため、ホッキョクグマを南極へ移すことは現実的な保全策とは考えられていません。
ホッキョクグマとペンギンは会うことがある?
野生では基本的に出会いません。
ホッキョクグマは北極圏、ペンギンは南半球に分布しています。
南極にシロクマがいないのは、寒さではなく進化と地理の歴史が理由
ここまで見てきたように、南極にホッキョクグマがいない理由は、単純な気温の問題ではありません。
ホッキョクグマが北半球で進化してきたことと、南極まで自然に分布を広げられる経路がなかったことが大きく関係しています。
ホッキョクグマは北半球で進化し、北極の海氷を利用する暮らしに適応してきました。そして北極から南極まで自然に分布を広げられるルートがなかったため、南極へたどり着くことはありませんでした。Polar
北極と南極は、どちらも白い氷に覆われているため似た場所に見えます。
けれども、
- 北極は海を大陸が囲む場所。
- 南極は大陸を海が囲む場所。
そこに暮らしてきた動物たちの歴史も異なります。
シロクマとペンギンが一緒に描かれたイラストを見ると、つい同じ場所に暮らしているように思ってしまいます。
けれど、その「どうして?」を少し掘り下げてみると、動物の進化だけでなく、地球そのものの歴史まで見えてきませんか?
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この記事の執筆者 / 監修者

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動物専門・ペット特化のWebライター・ディレクター・デザイナー。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、大手企業で広報や編集校正の仕事を経て、猫専門ペットホテル・キャッツカールトン横浜代表、動物取扱責任者、愛玩動物飼養管理士。
幼少期から犬やリス、うさぎ、鳥、金魚など、さまざまな動物と共に過ごし、現在は4匹の猫たちと暮らしています。デザインと言葉で動物の魅力を発信し、保護活動にもつなげていきたいと思っています。










